サマータイム・ブルース
著作名
サマータイム・ブルース
著者
サラ・パレツキー
ジャンル
女性私立探偵
星の数
★★★
出版社
ハヤカワ文庫
原作出版
1982
備考
ミステリベスト201より

「わたし」ことV・I・ウォーショースキー(ヴィク)は32歳。8年前に短期間だけ経験した結婚は、14ヶ月のちに憎悪で幕を閉じている。シカゴで生まれ育ち、弁護士をしていたが、今は気楽な探偵稼業。といいたいが、事務所に送られてくるのは小切手どころか請求書ばかり。そこに現われたのが“ミスター部屋代”で、彼は息子の恋人を探してほしいという。ありふれた失踪人捜しだ。ところがそこで見つけたのは当の息子の腐乱死体。おまけにミスター部屋代は正体不明の人物で……。

というオーソドックスなストーリーで、私立探偵ものとして格別の目新しさがあったわけではないが、本書で同時代的に彼女のデビューに立ちあった助成読者は、なんらかのカタルシスを味わったことを鮮烈に覚えているはずだ。女らしさなどどこ吹く風の威勢のいい態度、相手の頭をかみちぎらんばかりの我の強さ、「わたしは散らかし屋だが無精者ではない」という大真面目な屁理屈、すかさず出てくるへらず口やため口。男性の読者でこれを評価する人はいないと思うが(いるとしたら相当真摯に女性と向き合った経験のある人だ)、女性なら、頭上に広がるうっとおしい曇を払ってもらったかのような爽快感を味わう。

ヴィクシリーズの中で本書が出色の出来というわけではないが、彼女を父のように見守るマロリー警部補、なにくれといたわる女医のロティ、ときどき恋人になる新聞記者マリ・ライアスンなど、ヴィクの人生に登場する人々と親しくなるためにぜひこの一作目から手にとってほしい。というのもシリーズはだんだん身内の事件簿の様相を呈し、また作者が一作に一歳ずつヴィクの年齢をふやすことで、一人の女性の体の中を流れる人生の時間そのものにスポットをあてているからだ。七作目の『ガーディアン・エンジェル』では離婚した夫が登場、八作目が邦訳されればヴィクは四十歳になる。
(温水ゆかり)


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