バースへの帰還
著作名
バースへの帰還
著者
ピーター・ラヴゼイ
ジャンル
警察ミステリ
星の数
★★★★
出版社
ハヤカワ文庫
原作出版
1995
備考
海外ミステリ全カタログより

退職刑事ピーター・ダイヤモンド・シリーズの第三弾。噂にたがわず上出来である。

前作『単独捜査』では、自閉症の日本人少女にまつわる事件でロンドン、ニューヨーク、東京を股にかけて大活躍をしたダイヤモンドが、今度は脱獄犯と対決する。

相変わらずの不景気で、ダイヤモンドはスーパーの駐車場でのアルバイトで生計を立てている。ある夜、妻のステファニーに「こんなことなら警察をやめるんじゃなかった、お前まで巻き込んでしまって……」などと仲睦まじいところを見せている最中、古巣の警察の刑事たちの訪問を受ける。緊急事態が起きたので署まで来てほしいという。かつてダイヤモンドが手掛けて、殺人罪で刑務所に送った犯人マウントジョイが脱走し、事もあろうに副署長の娘を人質にとり、交渉相手にダイヤモンドを指名してきたという。しぶしぶながら引き受けて、マウントジョイと会見することになるのだが、彼は無実を主張し、ダイヤモンドに殺人事件の再調査を依頼する。警察も事務所と助手を用意するという好条件に、ダイヤモンドの刑事魂が頭をもたげ、事件を最初から洗い直していくうちにいくつかの疑問と謎が浮かび上がる。

今や、コリン・デクスターとともに英国ミステリ界を代表するラヴゼイは、時代物を得意としてきたが、頑固一徹だが人情にも厚い元刑事のダイヤモンドを主人公にしたシリーズで、現代ミステリにも成功した。

本書は、冒頭のマウントジョイの刑務所脱獄シーンから力が入り、早くも面白くなりそうだとの期待を抱かせる。ミステリとしての謎解きの興味にも事欠かない。もし、マウントジョイが無実なら真犯人は誰なのか? 美人ジャーナリストをめった切りにして、口に薔薇の花を挿した意味は? 被害者の大家、ボーイフレンドの音楽プロデューサーや馬術家……。次々と怪しい人物が登場する。そんな中でも脱獄囚と人質の女性とのやりとり、ダイヤモンドと助手の女性警部ジュリーとの友情の芽生え、夫婦間の会話に絶妙の冴えを見せる。

ダイヤモンドは、はたして警察に復帰できるのか? 暗闇の中での大捕物のおまけまであり、最後の一行まで楽しませる。九十五年度シルバー・ダガー賞に恥じない秀作である。


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