Yの悲劇
著作名
Yの悲劇
著者
エラリイ・クイーン
ジャンル
本格推理
星の数
★★★★
出版社
各社文庫あり
原作出版
1932
備考

2月の灰色の空の下、もはや形もないほどの死骸が、泡立つ海のうねりにもまれていた。トロール船のその日最後の獲物となり、あらくれ男の呪いの声と風の音を鎮魂曲に死体公示所へ向かう、これがヨーク・ハッター最後の旅であった。彼の遺書は簡潔だった。

――完全な精神状態において私は自殺する。
常軌を逸したハッター一族。その中で小心な父ヨークには女中ほどの権力もなかった。 悪名高い一家の暴君エミリー老夫人、天才詩人の長女バーバラ、酒色におぼれる凶暴な長男コンラッド、無軌道な末娘ジル。そして、エミリーと前夫トム・キャンピオンとの間に生まれたルイザは、不幸なことに見えず聞こえず話せずの三重苦の運命を背負っていた。

ヨークの死から2ヶ月、ルイザの卵酒を飲んだコンラッドの長男ジャッキー少年が、身体を海老のように折って苦しみ始めた。猛毒、ストリキニーネ。こうして悲劇の幕は開いた。

名優ドルリー・レーンは聴覚を失って引退、今はハドソン河畔の広大な「ハムレット荘」に住んでいた。年は60だが、40といっても通るだろう。新聞記事を読んだだけで当局を悩ませていた事件を解決、続いてロングストリート事件(「Xの悲劇」参照)でもその非凡な推理力で人々を驚かせた。そしてレーンは今回も、捜査に行き詰ったニューヨーク市警のサム警部から相談を受けたのだ。

6月の夜。今度はエミリーが、奇怪にもマンドリンで頭を打たれて死んだ。その形相は背筋の凍るような恐ろしい驚愕を示していた。人を人とも思わぬこの老夫人は、死の間際に何を見たのか。母とベッドを並べていたルイザが、以外にも手話で証言を始めた。ただならぬ気配に目覚めた彼女は、犯人の顔に触れたというのだ。
――やわらかく、すべすべした頬でした。
レーンは点字盤で文字を綴る。
――匂いはしませんでしたか?
彼女の指が動いた。しました、それは……。不思議な答えが返ってきた。

レーン4部作中の最高傑作とされるが、あまりにも古い。


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