すげ替えられた首
著作名
すげ替えられた首
著者
ウィリアム・ベイヤー
ジャンル
サスペンス
星の数
★★★
出版社
扶桑社ミステリー
原作出版
1986
備考

8月のニューヨーク。
同じ日に女教師とコールガールがそれぞれの自宅で殺された。
しかし、その死体はとんでもないことになっていた。
殺された女教師の首が娼婦の胴に、娼婦の首は女教師の胴についていたのだ。
誰がこんな危険を冒してまで、二人の首を交換したのか。
猟奇事件の捜査にあたる初老のフランク・ジャネック警部補は、謎の自殺をとげた先輩刑事の知り合いで女流写真家のキャロライン・ウォーレスと恋に落ちる。
すると、そのキャロラインに向けて、大胆不敵な犯人からの無言の挑戦状が届けられてきた。

ジャネックはその夜、キャロラインのロフトを訪れた。キャロラインは両腕で彼を抱いた。ふたりはそのまま無言でベッドへと移動し、そこで罠に落ちたように愛し合った。ふたりは何ヶ月も前から互いを知っているかのようだ、とジャネックは思った。

キャロラインに技巧はなかった。誰からか教わったような、俳優みたいな仕草をしなかった。キャロラインは見せかけも幻想もなく単に彼女自身だった。ジャネックはそれで充分だった。彼女の若い肉体はその欲望で張りつめ、乳房が彼の胸に強く押し付けられた。その背中は美しく艶を増し、その唇は貪欲だった。彼女はジャネックの肩をまさぐり、その指を彼の髪に深く差し込んだ。

ジャネックは彼女の喉、それから眼にキスをして、手を彼女の汗ばんだわき腹に走らせた。その脚は驚くほど滑らかだった。彼女はつまさきで彼のふくらはぎを愛撫した。ジャネックは彼女の欲望の戦きに畏怖に似た感情を覚えた。

キャロラインはまるで魔女のようだった。そして彼女の抱擁は魔法のようだった。ふたりは滑り、結合し、離れ、そしてふたたび結合した。彼らの身体は甘く緩やかなリズムに乗り、長い緩慢な陶酔の舞を舞っていた。ふたりとも無言であり、どう? とか、よかった? とか荒い息で囁くこともなかった。尋ねる必要はなかったのだ。ふたりは知っていた。彼らの動きのすべてに誤りない確実さがあり、どうすれば自分も相手も満足させられるかを深層の本能的な知が彼らに告げていた。

彼らは横たわったままお互いを見つめた。微笑がふたりの顔に浮かんだ。


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