警視の休暇
著作名
警視の休暇
著者
デボラ・クロンビー
ジャンル
警察ミステリ
星の数
★★★
出版社
講談社文庫
原作出版
1993
備考
海外ミステリ全カタログより

ロンドン警視庁のエリート警視ダンカン・キンケイドの休暇は、まずまず好調な滑り出しだった。どうにかとった一週間の休暇を利用して、ヨークシャーのリゾートホテルへ泊まることにしたのだが、愛車で目的地に向かってみると、そこは絵本に出てくるような美しい景色だったのである。

ホテルには元教区牧師の娘ペニー・マッケンジー、その妹エマ、生物学者ハンナ・オールコック、若手議員パトリック・レニー、その妻マータ、健康食品店経営者ジョン・ハンシンガー、その妻モーリーン、保険会社員グレアム・フレイザー、その娘アンジェラといった面々が泊まっていたが、少なくとも表面的には平和そのものだった。ところが翌朝、キンケイドが泳ぐためにホテルのプールへ行くと、ホテルの副支配人セバスチャン・ウェイドの死体が浮いていたのである。プールには高電圧のコードが投げ込まれており、死因が感電であることは疑う余地がなかった。

死体の発見者だということもあり、キンケイドは捜査の見物をしたいというのだが、縄張り意識の強い地元の警察では自殺として処理しようとするのだが、キンケイドはどうしても納得ができず、彼と同じように他殺だと考えているピーター・ラスキン警部補の協力を得て、捜査を始めることを決意するのだった。

犯人はホテルの関係者、あるいは宿泊客の中にいると思われたので、キンケイドはその路線に沿って捜査を進めていき、被害者の持っていたファイルに宿泊客に関する「ショッキングな情報」が書き込まれていたことを発見する。これで本格的に捜査を始めることにしたキンケイドは、ラスキンから情報を受け取りながら、さらにスコットランド・ヤードの部下ジェマ・ジェイムズ巡査部長にも協力を要請するのだった。ところが容疑者を絞り込むこともできないうちに、今度はホテルのテニスコートで、後頭部を殴られたペニー・マッケンジーの死体が発見されたのである。

本書はキンケイド軽視シリーズの第一作であると同時に、デボラ・クロンビーのデビュー作でもある。金持ちの集まるホテルで立て続けに殺人事件が起こり、容疑者は初めから限定されているという設定は、さながら黄金時代の本格ミステリを思わせるが、本書も骨格のしっかりした本格ミステリである。伏線は周到に張ってあるので、読者が途中で真相を見抜くことも、あながち不可能ではないだろう。内容的には現代社会の様々な問題を色濃く反映した箇所もあるが、謎の解明は意外なほど古典的なもので、一種の懐かしさを感じてしまうほどだ。近年は本書くものが減ったと嘆いているようなクラッシックのファンにもお薦めできる、少しばかり有難い作品なのである。


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