少年時代
著作名
少年時代
著者
ロバート・R.マキャモン
ジャンル
ハードボイルド
星の数
★★★
出版社
文藝春秋
原作出版
1991
備考
海外ミステリ全カタログより

ホラー作家として有名になったマキャモンの少年の日を描いた自伝的長編として出版された『少年時代』は、スティーヴン・キングが自分の少年時代を描いた『スタンド・バイ・ミー』と比較されて紹介されることが多く詳細は伝わっていなかったが、本書はその全訳である。

同じく作者マキャモンの自伝的作品といわれた『ミステリ・ウォーク』では、超自然的能力を持った少年と悪との戦いというホラー的要素を持った小説に仕上げているが、本書にはホラー小説的設定は特に見られない。作者がまえがきで自分自身であると述べている主人公のコーリーと彼を取り巻く両親、友だち、自然、そしてゼファーという架空の町を郷愁を込めて少年時代を書き上げている。この世界を貫くのは少年の信じるリリカルな魔法の数々である。本書は少年の間だけ信じられる魔法が織りなす少年時代の奇跡を描いた作品である。

ある日の早朝、コーリー少年とその父親トムは湖に車が飛び込むのを目撃する。助けに湖に飛び込んだ父親が見たものは、沈んでいく車の中の、手錠でハンドルに縛られ首を絞められて殺された男の姿だった。

死体の悪夢に苦しむ父親が次第に憔悴して弱っていくのを心配しながらもコーリーは友人たちとのキャンプ、初恋、親友の死、洪水での出来事、そしてザ・レディとの出会いを経験する。

静かだったゼファーの町にもスーパーマーケットが建ち、その影響でトムは牛乳店をクビになる。マッケンソン家の生活は苦しくなっていったが、コーリーは父親トムをいまだに苦しめている死体の手掛かりになる緑色の羽を湖岸で見つけていた。犯人を捜す決意をしていたコーリーはその羽と同じ色をしたオウムを見つけた――。

少年時代を通過してまさに大人になろうとする少年の一年を描いた作品であり、全編に少年の夢、言い換えればマキャモンの少年時代の夢が一杯に詰まっていて、キングの『スタンド・バイ・ミー』とはまったく違う魅力を持っている。この物語に重要な意味を持つ湖に沈んだ死体の犯人捜しの部分はぎこちなく、そのエピソードだけが全体に溶け込んでいない印象を与える結果になっているが、それも大きなキズとはなりえず、『少年時代』の出来を損なってはいない。色彩豊かなアメリカの四季を描いた傑作といえるだろう。


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