消されかけた男
著作名
消されかけた男
著者
ブライアン・フリーマントル
ジャンル
スパイミステリ
星の数
★★★★
出版社
新潮文庫
原作出版
1977
備考

「われわれは敵の組織を破壊しました……かれらが時間と金をかけてつくり、今日では、彼らにとって測りしれない重要さをもっていたことがわかったスパイ組織をです」
チャーリー・マフィンは、烈しい語調でいった。
「そこへ突然、物陰から、カレーニン将軍が姿を現します。KGBの天才であり、二十年間誰にも見られたことのない男が突然現れて、亡命の意思を示すのです。それとまったくタイミングをあわせたように、共産圏の主要刊行物のすべてに、カレーニンが抑圧の下にあり、亡命の希望を持っているという話がのり始めました」
「きみはおびえているのだ」
カスバートン部長が非難した。
「もちろん、おびえきっていますよ」
「わしはカレーニンがほしいのだ」
「でも、彼はきませんよ」
「くるさ」
カスバートン部長はそういいながら、この男にはまったく我慢ならないと思った。たとえ工作が成功したとしても、情報部から追放してやるのだと。

チャーリー・マフィン。英国情報部の腕利きスパイ。半年前には、KGBヨーロッパ組織の責任者べレンコフを逮捕している。しかし、最近になって情勢が変わった。チャーリーの能力を高く買い、彼を庇護してくれたウィロビー卿が引退したのだ。かわりに部長となったのはカスバートン卿であり、補佐役の次長には、チャーリーを毛嫌いしているウィルバーフォースがなった。彼らは、英国情報部の伝統にのっとったエリートたちである。チャーリーのような「素性のいかがわしい」叩きあげのスパイは、用ずみの厄介者というわけなのだ。

そんなときに持ち上がったのが、カレーニン将軍が西側へ亡命を希望しているとの情報だった。カレーニンと接触せよ。彼を、視察先のチェコスロヴァキアから、車でオーストリアへと越境させよ。
それがチャーリーの受けとった命令だった。
心配する妻イーディスに、チャーリーはいった。
「おれは生き残る男だ。それを忘れないでくれ。これまでだって、いつもそうだった」


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