ブラウン神父の童心
著作名
ブラウン神父の童心
著者
G・K・チェスタトン
ジャンル
本格推理短篇
星の数
★★★★
出版社
創元推理文庫
原作出版
1911
備考

国際的な怪盗フランボウを追って英国にやってきたパリ警察主任ヴァランタンは、ロンドンへの汽車の中で一人の神父に出会う。小柄な体に大きな帽子と蝙蝠傘という格好のその神父はブラウンといい、宝石入りの高価な十字架を運んでいた。神父と別れたヴァランタンはフランボウを捜しはじめある食堂に入った。
「犯人は創造的な芸術家だが、探偵は批評家にすぎぬのさ」
犯罪界の大立者フランボウを追う彼は、自分の不利を十分承知していた。ひとりごちながらヴァランタンはコーヒー茶碗を持ち上げ、塩と砂糖がすり替えられているのに気付いた。呼びつけられた給仕はどもり声でいった。
「わたしが思いますには、こいつはあの二人の神父じゃねえかと思います」
今朝早く入ってきた神父の一人が出がけに、飲みかけのスープを壁にひっかけていったというのである。ヴァランタンが風変わりな神父たちのあとを追跡すると、八百屋は林檎をひっくり返された上クルミとオレンジの値札を置きかえられ、レストランは窓を割られていた。
二人の神父を見つけると、のっぽのほうは、一目瞭然、フランボウだった。それはよいとして、さすがのヴァランタンにもここにいたるもろもろの事件に、つじつまのある説明をつけることができなかった。

これが、もう一人のちびのほう、ブラウン神父が初登場する「青い十字架」の物語である。
「奇妙な足音」の事件で、神父はフランボウに再会する。社交界の選り抜きだけからなる「真正十二漁師クラブ」、その年一度の晩餐会が行われるヴァーノン・ホテルに、ブラウン神父が立ち入ることになったのは給仕の一人が死んだからである。神父が事務室で世を去った男に関する文書を書いていると、奇妙な足音が聞こえてきた。すばやい小刻みな足音がつづき、一定の地点にくるとぴたっと停まって、今度はゆっくりとした歩調に変わり、それがこだまして消えると、またもや急ぎ足になるのだ。歩くために走り、走るために歩くのはなんとしたことであろうか? 神父と、この事件で改悛したフランボウは、「折れた剣」の冒頭で探偵小説史上最も有名なやりとりのひとつを交わすことになる。
「賢い人間なら小石をどこに隠すかな?」
「浜辺でしょう」
「賢い人間なら樹の葉はどこに隠すかな?」
「森の中ですよ」

奇想天外なトリック、ユーモアと逆説にみちあふれた推理小説。
収録作品は「青い十字架」「秘密の庭」「奇妙な足音」「飛ぶ星」「見えない男」「イズレイル・ガウの誉れ」「狂った形」「サラディン公の罪」「神の鉄槌」「アポロの眼」「折れた剣」「三つの兇器」の12編


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