脱出航路
著作名
脱出航路
著者
ジャック・ヒギンズ
ジャンル
冒険小説
星の数
★★★★★
出版社
ハヤカワ文庫
原作出版
1976
備考

第二次世界大戦末期、ブラジルのべレン港から出航しようとしている船があった。
三本マストの帆船〈グドリド・アンデルセン)号、スウェーデン船籍の船である。
だが、それは偽装だった。
実際は(ドイッチェラント)号、船齢60年になろうとする老朽帆船である。
乗組員と乗客達は8千キロ離れた祖国ドイツへ帰るために、中立国の船に姿を変えて、荒れる大西洋へ乗り出したのである。
乗客は、領事補夫妻、ドイツ軍兵士、尼僧たちだった。
戦局は既に連合国側に大きく傾き、海上は連合国に支配されていた。
偽装は彼らの臨検をかわすためだったのである。

だが、彼らの航海を妨げるものは、それだけではなかった。
北大西洋の天候が第二の、そして最大の敵であった。
とくに、英国の北方、ヘブリディーズ諸島近くの海域は、7日の内、6日は悪天候という、帆船にとっては最悪の難所であった。
ヘブリディーズ諸島のひとつ、ファーダ島へ向かう砲艇を指揮するハリー・ジェーゴ米海軍中尉は、いきなりユンカース機の攻撃を受けた。
とっさに発煙筒を焚いて、重大な損害を受けたように偽装して逃れた。
ジェーゴ中尉は歴戦の勇士だが、ついに重傷を負い、健康が回復するまでの間ヘブリディーズ海域の郵便配達業務をすることですごしていたのである。

一方、ユンカースの機上ではホルスト・ネッカー大尉が深追いはやめようと考えていた。
いきなり上がった黒煙は偽装くさかったが、もともと任務は敵輸送艦隊の捜索である。
ちっぽけな砲艇を撃沈しても、任務から逸脱したことの方でとがめられそうだった。

ファーダ島では、元米海軍提督ケアリー・リーブが、マードック老人のもとを訪れていた。
Uボートの乗員の死体が流れ着いたのである。
老人は教会の説教を担当していて、島では一番神父に近い存在だったのである。
老人は救命艇の艇庫にいた。
青年たちが戦争へいってしまったために、海難救助は彼ら老人の任務になっていたのである。
ドイッチェラントは、出航後、襲った嵐をかろうじてかわしていた。
そこへ、英国海軍の潜水艦が立ちはだかった。臨検である。
だが、偽装が効を奏して、臨検をかわすことができた。
初めて船長の胸に希望が生まれた。
本国キールへ無事に帰りつけるのではないだろうか……。

こうして著者は、最後のクライマックスにむけて、ドイツ、アメリカ、イギリス各国の人物を個性豊かに描き、配置していく。
さらに、Uボート艦長ポール・ゲリッケ、米海軍少将リーブの姪、ジャネット・マンローなどが、ファーダ島に集まってくる。
ドイッチェラントも着々と近づいてくる。
そして、ファーダ島海域には、空前の嵐がやって来ようとしていた、登場人物すべてを翻弄するためのように。


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