さらば愛しき女よ
著作名
さらば愛しき女よ
著者
レイモンド・チャンドラー
ジャンル
ハードボイルド
星の数
★★★★★
出版社
ハヤカワ文庫
原作出版
1940
備考

大鹿マロイは6フィート5インチはあろうかという白人の大男だった。往来を通る黒人達が横目で眺めては通り過ぎた。褐色のワイシャツに黄色いネクタイ、鰐皮の靴、上着のポケットから派手なハンカチをたらし、帽子のバンドに美しい羽根をさしこんだその姿は、ケーキの上の毒蜘蛛のように人目をひいた。

男は<フロリアン>という博打場のネオンサインを見上げ、その扉の中に消えた。私が中をのぞくと、どこからか大きい手が伸びてきて、私の体を持ちあげ、階段を一段のぼらせた。「ここに可愛いヴェルマがいたんだ。俺はもう、8年も会っていねえ。おめえ、ここは黒んぼの店だといったね?」
私はそうだと答えた。

私たちは一緒に二階へあがり、大男は店の男と押し問答をしたあげく、主人のいるオフィスへ乗り込んでいった。いきなり銃声がした。大鹿マロイが45口径のコルトを玩具のように握りしめて飛び出していった。

大鹿マロイはかつて密告によって逮捕された前科者だった。ところが出所してみると店はすっかり変わり、昔の恋人ヴェルマや彼を売った仲間の手がかりがつかめず、逆上して黒人殺しを犯してしまったのだ。私は元の店主の未亡人から、ヴェルマの写真を手に入れた。ナイトクラブの歌手なのだろう、道化服をつけたみごとな脚の女が無邪気に笑っていた。

その夕方、リンゼイ・マリオという男から仕事の依頼があった。高価な翡翠の首飾りをギャングから買い戻すための護衛役である。取引の場所はプリシマ・キャニオン。その丘の上からはるか彼方にベイ・シティの夜景が見えていた。私はマリオの車から降りて様子をさぐりにでたが、そこで不覚にも後頭部を殴打されて気を失ってしまった。20分の眠りからさめてみると、マリオはすでに撲殺されたあとだった。

首飾りの持ち主は病身の資産家を夫にもつグレイル夫人で、まだ若く、あざやかな金髪の、男心をそそる女だった。2件もたてつづけに警察沙汰に巻きこまれた私は、マリオの遺品の麻薬タバコから、ある神経科医に目星をつけて調査をはじめた。事件から腐敗の匂いが漂いだしていた。

処女作「大いなる眠り」以来、ダシール・ハメットの系統をいくハードボイルドの作者、チャンドラーの最高傑作。 全編に流れる美しい哀愁とスリルと非情……。

「長いお別れ」のほうが最高かも!


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