死の接吻
著作名
死の接吻
著者
アイラ・レヴィン
ジャンル
サスペンス
星の数
★★★★
出版社
ハヤカワ文庫
原作出版
1953
備考

第一章 ドロシイ
彼は注意深く言葉を選んだ。
「赤ちゃんのことを知ったら、潔癖すぎるほどのきみのおとうさんが、どうすると思う。きみは1ペニイももらえなくなる。ぼくたちはやっていけないよ」
彼のととのった顔だちと明晰な頭脳は子供のときから目立っていた。徴兵され、日本軍との戦いで悲惨と死を見つめた彼が、復員後、中西部の富豪たちの子女が集まるストッダード大学に入学したのは学問のためではなかった。そこで彼は首尾よく、「ギングシップ製銅」社長令嬢のドロシイと会ったのだ。

計画はおそろしく見事に運んでいた。ところが、いま彼女が何もかもぶちこわそうとしているのだ。
間に3人の娘までいる病身の妻を、8年も前のちょっとした間違いがわかっただけで離婚した製銅王レオ・キングシップである。ドロシイが堕胎しないかぎり、結婚には何の意味もない。焦燥は憎悪となった。彼は当然の対応策を実行した。
新聞はドロシイの市政会館からの墜落死を自殺と報じた。姉エレンにあてた彼女の最後の手紙が遺書としか思えなかったからである。

第二章 エレン
――ドロシイもはじめはコールドウェルへ入学したがったのです。(この旅行で1週間以上は欠席すると思います。あなたが授業のノートはとっておいてくださるから安心)でも、いつまでもわたしにたよりすぎているあの子のことを考えて、わたしは反対したのです。それであの子はストッダードに入りました。でもわたしがあの子の死を自殺と認めないのは、そういった感情的な理由だけではありません。手紙にあった「ダーリン」ということばは普段あの子の使わないものです。そして死んだ時の服装も、身なりに気を使うあの子らしくないものでした。
わたしはあることに思いあたって、ぞっとしました。市政会館は結婚しようというときに行く建物です。そうだとしたら、もとよりひとりで行ったのではないはずです――
ストッダード大学に着いたエレンは、ドロシイのいっていた男、秋の学期に文学のクラスにいた、美貌の、ブロンドの、青い目の青年を捜した。
だが、そういう学生は――二人いたのである。

貧しいゆえに野望をたぎらせ、金と地位を得ようとした才能ある美貌の青年が自滅していく。
第1章ドロシイ、第2章エレン、第3章マリオンと三人姉妹の名前が目次になっており、第1章は倒叙、第2章は本格、第3章はサスペンスといった具合にかかれている。


inserted by FC2 system