クリスマスのフロスト
著作名
クリスマスのフロスト
著者
R・D・ウィングフィールド
ジャンル
警察ミステリ
星の数
★★★
出版社
創元推理文庫
原作出版
1984
備考
海外ミステリ全カタログより

ロンドンから七十マイル離れたところにある地方都市デントン。このありふれた田舎町の警察署に勤めるジャック・フロスト警部は本書の主人公であるが、その特徴といえばざっとこんな具合だ。四十代後半の頭の禿げた冴えない男で、格好はいつもだらしがない。加うるに、怠慢で、口が悪く、その無責任さを隠そうともしない。まあ、簡単にいえば彼はデントン警察署の厄介者なのである。

このように書くと、ジョイス・ポーターのドーヴァー警部やレジナルド・ヒルのダルジール軽視がいやでも頭に浮かんでしまうが、フロストはそれら先達の特徴を幾分ソフィスティケイトした、より現実味のある主人公として描かれている。実際のところ彼は非常に有能な警官で、興味を持てば仕事熱心になることもある。彼のことを認めている人も、あるいは彼のことを慕っている人も少なくない。その勇敢な行動に対して勲章さえもらっているし、妻を亡くすという悲しみを乗り越えてきてもいる。フロストはそんな人物だ。

ともあれ、物語は読者の意表をつく発端から始まる。クリスマスを目前にしたある日、なんとそのフロスト警部が民家に不法侵入したあげく、家の主人に銃で撃たれ瀕死の重傷を負ってしまうのである。そして、その滑稽ともいえる事件に至るまでの顛末が順を追って描かれている。

その四日前、最短距離で刑事に昇進したクライヴ・バーナードはデントン警察署に着任するためはるばるロンドンからやってきた。警察署長の甥であるため、デントン警察署にとっていささか扱いに困る人物だ。ちょうどそんな折、子供が行方不明になったという通報が娼婦の母親から入る。優秀なアレン警部が捜査を指揮することになり、クライヴの世話はやむを得ずフロスト警部に任されることに。

町では他にも銀行の押し込み未遂事件が起こっていたが、クライヴを引きずり回しながら二つの事件の間を休むことなく行き来するフロストは、やがて新たな事件まで掘り当ててしまう……。

ユーモラスな会話や巧みな語り口を武器に読者を引き込んでいくさまは、処女作とはいえ作者の確かな技量を感じさせる。それは、人間味にあふれ、次第に悲壮感さえ帯びてくる主人公のフロストはもちろんのこと、その脇役たちにも十分な魅力があるからである。次期警察長を目指し、上昇志向のあるマレット署長。フロストに翻弄されっぱなしの部下のクライヴ。彼らとフロストのやりとりは皮肉なユーモアにあふれていて実に楽しませてくれる。もう少し毒気があってもよいかと思うが、シリーズ一作目としては十分すぎるほどの出来映えで、イギリス警察小説の醍醐味を味わうことができる。次作が楽しみだ。


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